痛みについて

痛みの定義

私たちがさまざまな原因で体験する「痛み」。
その痛みは人間しか体験できない感覚だ、と言われています。
でも、他の動物でも痛みが出るような強い刺激を受けると痛がっているようなしぐさをしたり、その刺激から逃げようとしたりする行動をとるではないかとお思いでしょうが、しかしその刺激に対する反応と人間の痛み感覚は同じではないのです。

痛みの研究をしている国際疼痛研究学会(IASP)では痛みの定義として次のように発表しています。
「痛み:実際の、または潜在的な組織損傷を伴う不快な感覚、精神的な経験」

つまり、痛みを起こすような組織障害がはっきりしている場合は当然痛みを感じ、そのことに対して精神的にも反応をするが、そのような組織障害が明らかではない場合でも痛みを感じることがあります。
原因が無くても痛みは起こりうるのだ・・というのです。
実際治療の現場にいるとその様な場面に時々遭遇します。

2種類の痛み感覚

私たちが体験する痛みの感覚、その感覚は神経線維によって伝えられている・・・というのは誰もが知っていることですね。
でも、その痛み感覚には2種類の感覚が混在している・・・ということをご存知でしょうか?

神経線維には「鋭い速い痛み」を伝える線維と、「鈍い遅い痛み」を伝える線維があるのですが、例えばこんな場面を想像してみてください。
ある時不意に向う脛を何かの角にぶつけた・・とします。そうするとどうでしょう?
最初、ぶつけた瞬間は「痛いっ!」と思うと同時に鋭い痛みが走ります。
しかし、その痛みは長くは続かず直ぐに無くなってしまいます。
そして、その直ぐ後から「ジンジン」した鈍いいやな痛みが出てくるのを体験したことは一度や二度ならずあると思います。
最初の鋭い痛みを『First Pain(ファーストペイン)』、後の鈍い痛みを『Second Pain(セカンドペイン)』と呼んで区別しています。
『First Pain』は伝達速度の速い信号で、ぶつけた瞬間に回避動作をとらせるための信号です。
そして問題になるのが後発の『Second Pain』で私たちを苦しめる慢性痛の主役としてかかわってくることを覚えておいてください。

痛みの分類

痛みを発生原因別にみる見方があります。

  • 体性痛
    皮膚や体表の粘膜、骨格筋、骨膜などが原因で生じる痛みで、限局した疼くような痛みで、体動によって増悪する痛みを言います。

  • 内臓痛
    内臓の炎症や壊死、伸展、強い収縮などによって生じる痛みで、深い部位での鈍い、重苦しい、締めつけられる、痛みであることが多い。

  • 神経因性疼痛
    末梢神経または中枢神経の損傷や障害によって起こる痛みで、焼けるような、電気が走るような、刺すような・・と表現される痛み感覚、の特徴があります。

  • 混合型神経障害性疼痛
    体性痛と神経因性疼痛との混合型、体性痛と内臓痛の混合型、あるいは 前出3つの混合型 等など いろいろな混合型が出現します。
    特にこの混合型は癌性疼痛で頻発し、疼痛コントロールを困難にする場合があります。

以上のような分類をするのは、原因によってそれぞれ治療が変わってくるからで、
例えば内臓痛にはモルヒネがよく効くが、神経障害性疼痛には効きにくい・・・などの理由によります。

痛みの分類2

痛みを「急性疼痛」と「慢性疼痛」として分けるやり方があります。

例えば急にお腹が痛くなったり、頭が痛くなったり また怪我をして痛くてたまらない等は「急性疼痛」と言われます。
これに対し、怪我で手術を受けた後がいつまでも痛い、帯状疱疹のあとの痛みが取れないとか、年をとって出てきた頸、肩、腰、ひざ などの痛み等などを「慢性疼痛」と呼んで区別しています。

急性疼痛に対しては近年、診断学も治療学も非常に進んできており、原因究明が的確に行われ、それに対する根本治療が速やかに実施されるシステムが行き渡っております。
しかし、それに引き換え慢性疼痛は、いまだに原因がはっきりしない、または原因がわかっていてもそれに対する治療法が無い・・という状況が続いているのが現状です。

心が引き起こす痛み

痛みには心因性疼痛と云われる痛みがあることはすでにお話ししましたが、ではどうして「心(こころ)」が痛みを引き起こすのでしょうか?
それは例えばある時、体調がすぐれないので病院を受診したところ 「少し進行した胃がんです。」と云われたとしましょう。
たいていの人は頭の中が真っ白になるようなショックを受けるに違いありません。
そしてそのあと様々なことが頭をよぎり、心は乱れ夜も眠れず、結果軽いうつ状態になるはずです。
その状態は自律神経の交感神経を優位にするように働くため筋肉の緊張や血圧の上昇といった事態をも引き起こすことになります。
その反応自体は緊急事態に対処するための防衛的な正常な反応なのですが、しかしその状態が長く続くと緊張した筋肉に血管やリンパ管が圧迫され、通過障害を起こし、そのために老廃物の排出が滞り、そのことがまた刺激となってさらに筋肉の緊張を強める…といった悪循環に陥ります。
その結果、頸や肩の痛み、頭痛、目の奥の痛み、といった諸々の痛みや不眠や不安といったまさに心因的な症状まであらわれるようになるのです。
私が緩和ケア・チームの一員としてかかわっている慈恵医大病院に入院されている癌患者さんたちは、それぞれの癌との戦いばかりではなく、自分の中から湧きあがってくる手強い痛みとも戦っておられます。

「不快」という感情

私たちが体験する痛み感覚は「痛み」という感覚と同時に湧きあがる「不快」という心理感覚をも体験させてくれます。
しかし、この「不快」という感情はどこからどこから来るものなのでしょう?
痛みは記憶だとも言われています。
それは私たちが初めて痛みを経験する時、痛みの感覚と同時に、その痛みをおこした際の驚きや恐怖心といったその瞬間の感情をも記憶してしまうのです。
そのため、その事件から何年も経過した後なのに、そしてまったく別のきっかけで起こった痛みであるにもかかわらず「痛い」という感覚と同時に「不快」な感情も呼び覚まされてしまうというわけです。
そしてまた、痛み感覚はあくまでも主観的で個人差が大きいという特徴があります。
そのため痛みの強さを客観的に測ることが極めて困難である理由です。

痛みの警告信号としての働き

痛みという感覚、痛みという体験は我々にとって避けられない体験であり、また体験せずに済むものだったら絶対に体験したくない嫌な感覚であることは誰しもが認めるところでしょう。
そのために薬を飲んだり注射をしたり、鍼治療を受けたりリハビリをしたりと様々な手段を講じてその痛みから逃れようと努力をしています。
しかし、その嫌な痛み感覚ですが、体の中ではとても大事な仕事をしています。
それは体内の様々な異常を知らせてくれる警告信号としての働きです。
体の一部をどこかにぶつけたり、非常に熱いものに触った時の鋭い痛みは、思わず体をよけさせて大きな怪我や火傷にならないように回避動作を起こさせる信号として働きます。
お腹の中から発する鈍い痛みはその付近に何か異常があるのでは?という予感を本人に起こさせて、安静にするとかもっとひどければ病院に行って診てもらう・・ということで病気の早期発見に貢献するでしょう。
痛みは「痛い!」という感覚を起こすことで我々に異常事態の存在を知らせてくれているのです。

最後に

誰しもが嫌だ!と思う痛みですが、その嫌な痛みが起こらないと、とても困った事態に陥ることがあります。
例えば癌がその代表格でしょう。
癌は発生してからしばらくはほとんど痛みなど起こりません。
そのため本人が違和感を感じて病院で検査を受けなければと思った頃には相当進行していて、不幸にも手遅れであった・・等ということは少なからずあることはほとんどの方がご存じのことでしょう。
癌が発生した直後から痛みなどのはっきりした警告信号があれば、もっと早く病院を受診することになるでしょうし、その結果たくさんの人が助かったに違いありません。

またこんな例もあります。
私がまだ整形外科に勤務していた時の経験です。
ある時、中年の男性で空調関係の仕事をしている方が仕事中に足首の捻挫を起こして来院されたのですが、レントゲン検査でも骨折が否定できたためテーピング固定と鎮痛剤の投与を受けて帰られました。
その2日後、その患者様は患側の足を象の足のように腫れさせて来院したのです。
事情を聴いたところ病院から帰った後、「先生からは安静にするようにと言われたが、仕事が立て込んでいた事と薬が良く効いたようでほとんど痛くなかったのですぐにまた仕事をしてしまった」というのです。
そして翌日は痛くならないように・・と鎮痛剤を多めに飲んで一日中仕事をしていたそうですが、さすがに夕方には痛みが出てきて我慢が出来なくなったため早めに帰宅したが、翌朝(当日)起きてみたところ患部が腫れあがっていた・・・ということでした。
結局この患者さまは捻挫を起こした直後であるにもかかわらず患部を酷使してしまったため、痛みが治まらず一か月以上にわたって治療を余儀なくされてしまったのです。
この例も痛みを感じて安静にしていればこんな事態になることはなかったであろう事例です。


痛みがなぜ必要なのか?痛みが担っている役割等は前に書いた通りです。
痛みが起こることで我々は危険を回避し、障害の程度を軽くでき、あるいは病気の重篤化を防ぐことができています。
しかしその一方、警告信号であるはずの痛みが長引いてくると「警告信号だから・・」などとは言っていられない事態も生じて来ることがあります。
慢性疼痛と云われるのがそれで、治ると思われる期間を超えて痛みが継続している状態を言いますが、それは慢性的に痛みがあると痛みを感知、伝達、認知・・する疼痛システムそのものが敏感になり常に稼働している状態になってしまったり、伝達システムが痛み刺激や神経損傷のために変化してしまうのが原因だと言われています。
その代表格が帯状疱疹後神経痛で、皮膚にできた疱疹が良くなってしまってからも何年にもわたって痛みが残り、患者さまを苦しめる病気です。
その結果うつ状態になったり、それが原因で社会活動に影響が出たり、離職を余儀なくされるような深刻な事態にまで追い込まれることすらあります。

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